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追跡の巨人



シカに弾が当たっても致命傷とならずに

逃げられてしまうことを「半矢」と言います。


逃げ切られてしまえば

単にシカに怪我をさせただけですし、

もし死んでしまったら肉を取ることもできず

無駄死にさせてしまう事になります。


ハンター自身も本気で凹みますし、

シカを追いかける過程で

滑落などの事故に遭う可能性だってあります。


半矢はあってはならないことなのです。




先日、当会会員2名、HとMで出猟した時の事。

Hは獣道を歩き、Mは車で待機していました。


Hは身長190センチ近い巨体で、

トレイルランニングの選手でもあります。

誰もが躊躇する険しい道でも

当たり前のように入って行ってしまう体力と度胸は

当会でも一目置かれた存在です。


そのHがシカを半矢にしてしまいました。


先ほど書いたように

半矢はあってはならない事ですが、

狩猟に100%ということがないのも確か。

ハンターなら誰もが同じ体験をする可能性があると思います。


大切なのはその後です。


かすかな血の痕跡見つけたHは追跡を開始。


大量の血が落ちている場合は

逃げたとしてもそんなに遠くない場所で

倒れていることが多いのですが、

血がポツポツしか落ちていないという無線連絡を聞いたMは

「これは逃げ切られるんでないだろうか」と内心思っていました。

大怪我を負ったシカでも、本気で走られたら

人間のスピードでは到底追いつくことはできません。

かすり傷ならなおさらです。


ところが全く諦める気の無いH。

わずかな痕跡をたどり続けます。

姿を見るまで追いついては猛ダッシュで逃げられ、

を何度も繰り返します。


笹薮をこぎ、沢を渡り、時に全速力で走りながら

道なき道を追跡すること1時間半。

ようやくとどめを刺すことができました。


一発でシカを倒せなかったHは大反省。

「追いつくのは難しいだろう」と考えていたMは

さらに大反省です。


でも、

(半矢はまったく褒められたことではないのを差し引いた上で)

シカを諦めずに追い続けたHの

「撃ったからには絶対に責任を取る」という執念は

立派だったと思います。


解体からはMも応援に駆けつけました。


到底助からないような大怪我を追いながら

長距離を逃げ続けたシカには敬意しかありません。

苦しませてしまってごめんなさい、と謝りながら

できるだけ綺麗に肉をとり、すべて持ち帰りました。




半矢を完全になくすことはできません。

必ず当たる確信があったとしても

外してしまうこともあります。

それはある意味、完全には、

ハンター自身では決められないことです。


しかし、半矢にしてしまったシカをどこまで追うかは

ハンター自身が決められることです。


もちろん、後ろ髪を引かれながらも

勇気ある撤退が必要な時もあるでしょう。

でもそれは、可能な限りの努力の結果であるべきです。


引き金は軽くても、

責任は限りなく重いのです。


きちんと命と向き合い、

ハンターとしての責任をまっとうすること。


「志の高さ」が当会の主旨であり、誇りです。




ということで、Hのことはこれから

「追跡の巨人」と呼ぼうかと思っております。

(結局、全然褒めてない…)

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​Hunters base hokkaido since 2016

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